保科正之

江戸時代の名君といえば、恐らく真っ先に出てくるのは上杉鷹山だろうと思います。ケネディがその名前を挙げたことでも知られており、また上杉鷹山についての出版物も数多く出ています。

一方、保科正之は知名度で明らかに劣り、完全に影に隠れてしまっていますが、ひょっとするとそれ以上の名君ではないかという説もあります。

保科正之という人物は、一応高校の日本史の教科書には載っているはずですが、殆どの人は覚えていないだろうと思います。まずは簡単に略歴から。

１６１１年生まれ。父は徳川２代将軍秀忠。３代将軍家光の異母弟。信州高遠藩保科家の養子となり、その後山形を経て会津に移る。家光死後、４代将軍家綱の後見人となり幕政を補佐。１６７２年没。

大阪夏の陣の後、武家政治が武断政治から文治政治に移り変わっていく時代を引っ張っていった人で、かつ会津藩の基礎を築いた人です。

保科正之の後、会津藩は３代藩主の時に幕府から松平姓を与えられ、幕末に歴史の表舞台に出てくる会津藩というのは、この系統です。幕末の藩主松平容保は幕府からの京都守護職就任要請を再三断ったのですが、保科正之が幕末に生きていたらきっと引き受けたであろうと口説かれ、断れなくなったという因縁があります。

家光の異母弟というところがミソなのですが、秀忠は大変な恐妻家で、正室於江与の方は淀殿の妹でしかも６歳年上でした。そんな中で側室に極秘に産ませたようですが、於江与の方に知れると命をも狙われかねないということで、武田信玄の娘の見性院に預けられ、更には信州高遠藩の保科正光の養子となっています。

家光も正之の存在は将軍になってから知ったようです。家光は４０代で亡くなり、まだ元服前だった４代将軍家綱の補佐を任され、大老格として幕政を引っ張ることになります。

現在の皇居東御苑に江戸城天守閣跡がありますが、これは正之の時代に明暦の大火で焼け落ち、その後再建されず今に至っています。天守閣は戦乱の世に威厳を示すだけのものであり、平和な世ではもっと他の復興に力を入れるべきといって、再建しないことを決断したのが正之です。

また当時の武家社会の慣例として、主君が亡くなると殉死者が必ず出たのですが、会津藩はこれを禁じました。また正之は、社倉といって非常時に備え米を備蓄する制度を会津藩に設け、飢饉の時には他藩では餓死者が相次ぐ中、会津ではその米を放出して餓死者が出ないようにしたそうです。

更には領内の９０歳以上の民には身分を問わず禄を与え、これは日本初の国民年金制度とも言われています。現在の国民年金制度が確立したのは１９６１年です。それより３００年も前にそういう仕組みがあったというのは、当時対象となる人数はかなり限られたかも知れないとはいえ、その発想自体は驚くべきことだと思います。

明治維新の際に会津藩は朝敵とされたこともあって、それゆえ明治の世では採り上げられることも少なくなり、現在もあまり知られていないのではと思います。

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