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新潮新書「武士の家計簿」 [歴史本]

著者は磯田道史という若手の研究者です。江戸時代の武士に対して我々が抱いている常識を覆させる一冊です。歴史好きの人にも歴史にあまりなじみのない人にもぜひお薦めしたい本です。

この本は幕末から明治にかけて生きた、加賀藩の御算用者(いわゆる経理)の猪山家が書き残した日記や手紙などから明らかとなった、当時の武家の暮らしぶりが書かれています。

それは我々がこれまで持っていた武家のイメージを一変させます。私が一番驚いたのは、とにかく武家が貧乏だったということです。武士の身分を維持する為に冠婚葬祭その他膨大な費用がかかり、自分達が自由にできるお金はむしろ使用人の方が沢山持っていた、という事実は、水戸黄門や大岡越前を見ていても決してわからないことです。

支配階級である武士が金に困り借金を重ねる一方で、商人や農民はどうだったか。商人は利益をどんどん上げるものの、社会的には卑しい身分と思われ、藩に多額の寄付をして苗字帯刀など武家の特権を手に入れようと努力したりしていたケースもあったようです。また農民が一揆を起こしたりするのは、凶作の年などに年貢の減免を求めるためであり、武家政権そのものを転覆させようとするような動きは皆無に等しかったようです。

江戸時代に農民革命が起こらなかったのは、武士の貧窮ぶりを普段から知っていたからではないかと、この本では言っています。だから江戸幕府は200年以上も続いたのかも知れません。

また江戸時代の武家は、親戚付き合いが非常に密だったようです。どこまでが親戚かを藩に届け出ていたりしています。また嫁入りした妻は実家とのつながりが非常に深く、出産費用も大半を実家が負担したり、また冠婚葬祭でも実家の援助を度々受けています。

更にこの本では、明治維新の頃の様子についても書かれています。明治維新で士族は皆没落してしまったかのように思われていますが、実はそれは正確な見方ではないということも書かれています。

明治維新後も同様の地位を維持できたかどうかは、新政府に出仕できるかどうかにかかっていたようです。新政府の役人の給料は、役人になれず民間に雇われたり家賃収入で暮らした士族の収入と比べると、何十倍も上回っていたようです。明治政府の役人がそこまで高給取りだったとは、私も全く知りませんでした。

また、士族の目から見た文明開化の激動についても色々書かれています。武家の娘が商家に嫁いだり、太陽暦が導入されたり、日々の暮らしがどう変わっていったかということが実に興味深く書かれています。

この本に書かれていることは、まさに歴史の盲点です。知らないことだらけで、とても勉強になります。こういった武家の実情に焦点を合わせた時代劇や歴史番組がもっと増えて欲しいですね。


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